【老子】易性第八
「水善利萬物而不爭。」
利
「禾[いね]+刀」。稲束を鋭い刃物でさっときることを示す。一説に畑をすいて水はけや通風をよくすることをあらわし、刀はここではすきを示す。すらりと通り、支障がない意を含む。
転じて、刀がすらりと通る(よく切れる)、事が都合よく運ぶ意となる。
1. とし。すらりと刃が通って、鋭いさま。
2. すらりと運ぶさま。 + 都合よう運ぶさま。
3. もうけ。
4. 儲ける。⇔害
5. 都合よいと考える
6. ききめがある。役にたつ。
善[ぜん]
旧字は譱。羊の下に言言と書く。 羊は義(よい)や祥(めでたい)に含まれ、美味しく見事な供え物の代表。言はかど(=才能・才気・見所・趣)ある明白なものの言い方。善はたっぷりとみごとである意を表す。
また一説には、善は羊神判における勝利者を善しとする意。言言は原告と被告の当事者。この当事者が盟誓ののち神判を受け、その善否を決する。
1. よい(よし)。好ましい。善⇔悪
2. よいこと。
3. 上手な。巧みな。
4. …しがちである。しばしば…する。
5. 仲がよい。
6. よみする(よみす)。ほめる。よいと認めて大切にする。
「處衆人之所惡。」
處
処は「夂(あし)+几(だい)」。足を止めて床几[ショウギ]に腰を落ち着ける意を示す。
1. おる。(をる。)ある場所に落ち着く。
2. おく。しかるべきところにおく。
3. あるべき所に落ち着ける。
4. しまつする。
5. しかるべく決める。
6. ところ。しかるべきところ。
7. 場所を数える単位。
悪[あく]
亞(=亜)は玄室の象徴で凶礼・凶事の意があり、その心情を悪という。
また一説には、亞は角型に掘り下げた土台を描いた象形で、家の下積みとなるくぼみを指す。下に押し下げられてくぼんだ気持ちや欲求不満をの意がある。
1. 嫌な。醜い。ひどく苦しい。悪・醜⇔善・美
2. 上等でない。粗末である。
3. 悪いこと。嫌な行い。悪⇔善
4. にくむ。嫌だと思う。悪⇔美
5. いずくにか(空間を問う反語;どこに~であろうか)
6. いずくんぞ(反語; どうして~であろうか)
7. ああ。(感嘆することば)
「衆人之所惡」はすなわち低いところ。中国の古代では低湿の沼沢地がいまより多かったかもしれない。そういう場所に住むのは危険だったであろう。あるいはまた汚水の淀んでいるところを指すかもしれない。
「居善地、心善淵、與善仁、言善信、正善治、事善能、動善時。」
地
也[ヤは、うすい体ののびたさそりを描いた象形文字。地は「土+也」で、平らにのびた土地を示す。
1. (天に対し)地, 大地
2. 地球
3. 陸地, 土地
4. 地下の, 地面下の
5. (地所としての)土地
6. 田畑, 田地
7. (多く方位詞「上」「下」などを伴い)地面, 地べた, 床
8. 地面いっぱいに広がっているものを数える
9. 道のり, 路程
10.場所, 地域, 地点
11.段階, 程度
12.(図案などの)下地, 地
「正」
「政は正なり」 ―『釋名』釋言語
∴ '政'='正'</srtong
◆豆知識◆
新潟県南魚沼郡湯沢町にある白瀧酒造の「上善若水」というお酒をご存知でしょうか。
こちらのお酒は、老子の「もっとも理想的な生き方(上善)は、水のようである(若水)」という思想に重ね合わせ、「最良のお酒は限りなく水に近づく」と考えて醸されているとのことです。
(2018/01/13 執筆記事 転記)